No.87 山のクリオネ、ミヤマウズラ

 8月も終わりにさしかかり、ミヤマウズラの花が咲き始めました(写真1)。クリオネに似てると思いませんか?

写真1 ミヤマウズラの花
写真1 ミヤマウズラの花

 ミヤマウズラは、花茎(高さ12~25cm位)をまっすぐに伸ばして、ほぼ同じ向きに、花(幅1cm位)を5~20個ほどつけ、下の方から順に花びらを開いていきます(写真2)。花びらの上側には虫を花の中に誘導する印(蜜標)があり、これが目玉のように見えます。そして、花びらの開き具合に応じて、クリオネやセサミストリートのビッグバード、ハローウインのおばけなど、愛嬌のある姿を楽しませてくれます。

写真2 ミヤマウズラの全景
写真2 ミヤマウズラの全景

 ミヤマウズラは、ランの仲間で、以前に紹介したネジバナ(No.71 身近に見られるランの仲間、ネジバナ)と同じような花のつくりになっています*1。おしべとめしべは花の中に隠れていて、蜜を吸おうと花の中に入った虫に花粉をくっつけてもらい、別の花に運んでもらう作戦です。偶然、花粉の塊が花びらの外についたミヤマウズラを見つけました(写真3)。たらこ型の黄色いのが花粉の塊です。花粉は粘着性の物質で、しっかりと花びらにくっついてました。残念ながら、虫に運んでもらう途中で、虫のからだからはがれてしまったようです。

写真3 花粉塊をつけたミヤマウズラ
写真3 花粉塊をつけたミヤマウズラ

 ミヤマウズラの名前は、葉の模様( *2)がウズラ(鳥)の羽の模様に似ていることに由来しています。真ん中の葉脈(主脈)とまわりの葉脈(側脈)をつなぐように入った網目模様が美しいです(写真4)(参考 No.85 色々な葉脈)。ミヤマウズラは常緑で花が少ない冬でも葉の模様を楽しめます。

写真4 ミヤマウズラの葉の模様
写真4 ミヤマウズラの葉の模様

 葉の模様は、個体によって濃淡に差があり(写真5上)、日当たりがいいと模様が薄くなる事があるそうです*3。また、葉が小さくても花をつけている個体があるのに、葉が大きくても花をつけていない(花茎を伸ばしていない)個体がありました(写真5下)。春先に葉が大きいミヤマウズラを見つけて、花が咲くのを楽しみにしていたのに、ちょっと残念です。環境との関係はなかなか興味深いですね*4

写真5 いろいろなミヤマウズラ
写真5 いろいろなミヤマウズラ

 8月の終わりから9月中旬にかけて、ミヤマウズラは愛嬌のある花を咲かせてくれます。名前にミヤマ(深山)がついていますが、大阪では、府民の森や金剛山など、いろんな山で見られます。ただ、数は多くなく、局所的にぽつぽつと生えていますので、ミヤマウズラが生えてそうな所*5を通りかかったら、歩くペースを落として、ミヤマウズラを探して見てはいかがでしょうか。山のクリオネに出会えるかもしれませんよ。

(ます 2022/08/30)

【より深く知りたい方へ】

 

*1 ミヤマウズラの花のつくり

 形が異なる3枚の花びらと3枚のガクでできていて左右対象です(付録写真1)。めしべとおしべ、花粉の塊(かたまり)は、一体になって、花の奥に隠れています。花粉はランの仲間に特徴的な、たらこ型です。

 ネジバナ(No.71 身近に見られるランの仲間、ネジバナ)と比べると、左右のガク④⑤と下側の花びら①が大きく、目玉に見える蜜標と相まって、花びらの開き具合に応じて、さまざまな姿を楽しませてくれます。

 ミヤマウズラは花をまっすぐに付けていますが、ネジバナは、花をねじって付けていきます。どちらが、虫に花粉を運んでもらいやすいのかな?

付録写真1 ミヤマウズラの花のつくり
付録写真1 ミヤマウズラの花のつくり

*2 ”植物の斑入りの葉

みんなのひろば 登録番号0727(日本植物整理学会、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=727)によると、葉の細胞の中で葉緑体がない細胞のところが白く見えて、模様(斑)のように見えるのだそうです。模様は遺伝や突然変異、また、病気によって発生するのですが、何のために模様を発生させているのかという理由はわかっていないようです。

 

*3 ミヤマウズラ、岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 旧植物生態研究室(波田研)のホームページ

http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/monocotyledoneae/orchidaceae/miyamauzura/miyamauzura1.html

日当たりがいいと模様が薄くなる事があるそうです。そういえば、写真5の上左は日当たりがよく(ただ、土地がやせているのか、まわりに植物が少ない)、右上はあまり日が当たらない感じでした。

 

*4 "貧栄養状態と子孫の関係"

みんなのひろば 登録番号2699(日本植物整理学会

https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2699によると、病害、虫害や、栄養?水分条件の異常などによるストレスが続くと花芽ができることがあるらしいです。

 

*5 ミヤマウズラが生えてそうな所

わりと幅広い植生下で生えているようです。何十カ所も見たわけではないのですが、私が大阪の山でミヤマウズラを見た所を参考に(下記、並びに、付録写真2~5)、探してもらえばと思います。一度、見つかれば、なんとなく、生えていそうな場所の見当がついてきます。

 

・尾根筋や緩やかな斜面の、アカマツが生えている雑木林

・登山道の道端などの半日蔭

・まわりに草がまばらにしか生えてなくて、背丈の高い草がない

・まわりや、少し歩いたところに、ツルアリドオシが生えている

(今の季節は、2つの花の跡が残る赤い実をつけてます)

 

大阪府民の森では植物の採取は禁止されています。ミヤマウズラが見つかっても、ルーペや写真で楽しんでくださいね。

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