No.30 アサギマダラは秋のチョウ?

アサギマダラというチョウをご存じの方は多いと思います。海を越えて遠く台湾や香港と日本との間で渡りをする渡りチョウです。では、みなさんはアサギマダラをどの季節のチョウと感じておられますか?

 

先日、ちはや園地のイベントの下見で、リョウブの花で蜜を吸っているアサギマダラをたくさん見かけました。真夏の頃には、涼しい金剛山でもさすがに花が少なく、小さいながらたくさんの花を咲かせるリョウブの木には、アサギマダラやテングチョウなどのチョウ類やハチ類が数多く集まってきます。なかでも、アサギマダラはその名のとおり、あさぎ色(浅葱色:ごく薄い藍色)の羽が青空をバックに透けてたいへん美しく、また、ひらひらと優雅に羽ばたき、すーっと滑空する姿には思わず立ち止まって見てしまいます(写真1)。

写真1.リョウブで吸蜜するアサギマダラ(ちはや園地)
写真1.リョウブで吸蜜するアサギマダラ(ちはや園地)

その日はナイトハイク&星空観察の下見でもあったので、日が暮れてから、昼にアサギマダラを見たリョウブの木のあたりを散策してみました。すると、一匹いました!細い枝の上のほうに前羽と後羽をぴたっとあわせてとまっています(写真2)。ライトを向けても、こちらがごそごそ動いても、アサギマダラは身動き一つしません(驚かさないように距離を置いて観察していることもありますが)。チョウは草や木の葉の下に止まって眠ることが多いと聞いていましたが、アサギマダラは幼虫のころからアルカロイドを食べて蓄えた毒で外敵から守るすべを持っているので、安心して眠れるのかもしれませんね。熟睡という感じがぴったりでした。

写真2.枝先で睡眠するアサギマダラ(ちはや園地)
写真2.枝先で睡眠するアサギマダラ(ちはや園地)

さて、夏の間涼しい高所で過ごしたアサギマダラは、秋になると長い渡りや近郊での繁殖に備えて、里山に下りてきて英気を養います。アサギマダラは渡りだけではなく移動するチョウなんですね。くろんど・ほしだ・むろいけなど里山の園地では、アサギマダラがヒヨドリバナのまわりをひらひらすーっと飛び、花に止まって蜜を吸っているところをよく見かけます(写真3:下左)。羽の様子を注意深く観察してみると、ヒヨドリバナで蜜を吸っているのは、ほとんがオスだとわかります。後羽の下側に黒っぽい部分があるのがオスです(写真4:下右 クリックで拡大します)。オスはメスを呼び寄せる性フェロモンを作るために、ヒヨドリバナが持っている成分を取ろうとして集まってくるのです(同じ理由でフジバカマにもよく集まります)。

オスは、はら(腹)の先にヘアペンシルという絵筆のような器官をもっていて、ここから性フェロモンを出して繁殖にのぞむわけです。写真5:下左にははらの先に毛らしいものが写っています(手に取って確かめてないので見間違いかもしれませんが、イメージとしてはこのあたりにあります。クリックで拡大します。)

ところで、アサギマダラの渡りや移動が確かめられたのは、マーキング調査という手法のおかげです。チョウを捕まえて羽に日付や識別記号などを書いた後に放して、別の場所で発見された時に羽に書かれた情報を確認することで、移動や渡りの謎が解明されてきたのです(写真6:上右 マーキングされたアサギマダラ クリックで拡大します)。アサギマダラの他にも、テングチョウやヒオドシチョウも、暑さを避けて高所へ移動している可能性が高いと考えられていますが、マーキングはアサギマダラの羽に鱗粉が少ないからできた手法で、他のチョウでは移動を確認することが難しいのです。

 

最初の問いかけにもどって、みなさんはアサギマダラをどの季節のチョウと感じておられますか? 同じ大阪でも、ほしだ園地のような里山と、金剛山のちはや園地のような高所では、生き物や気候がずいぶん違ってきます。アサギマダラではないですが、時には高所、時には里山と、自然の中でいつもと違った季節を感じてみるのはいかがでしょうか。(2018/8/4 ます・ちはやのqael)

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