No. 106 「閑さや岩にしみいる蝉の声」は何ゼミ?

 

 夏の風物と言えばセミですが、色々なセミの声は夏の訪れから盛りへ、そして秋へと季節の移り変わりを感じさせてくれます。

 

 大体ですが6月末~7月初めにニイニイゼミが鳴き出して--> 盛夏にはクマゼミとアブラゼミ --> お盆を過ぎにツクツクボウシが鳴くようになります。またセミの鳴く時刻や鳴き方は一日の内でも決まっていて、鳴き声でおおよその時間を知ることができます。例えばクマゼミは朝5時ころから泣き始め10時ころには鳴きやみます。アブラゼミは朝一に少し鳴き、午後から夕方にかけて断続的に鳴きますが日没が近づくと鳴き声がゆっくりになるようです。

ニイニイゼミは朝から夜まで一日鳴いています。参照: セミの鳴く時間

 

 子どものころセミを取るのは楽しい思い出ですが、特に夜にセミの羽化を

見るのは感動的でした。セミの幼虫が時間をかけて木を登り、じっとして背中が割れて白い体が抜け出て翅を伸ばす姿は神秘的で美しく、命を感じさせてくれる瞬間でした。写真1はヒグラシの羽化です。

写真1. セミの羽化(府民の森パークレンジャーの写真より)
写真1. セミの羽化(府民の森パークレンジャーの写真より)

 

 アブラゼミとニイニイゼミの羽化

 

 次に園地でよくお目にかかるセミについて紹介したいと思います。

 

       写真2. アブラゼミ             
       写真2. アブラゼミ             

1. アブラゼミ

 多くのセミは翅が透明ですが、アブラゼミの翅(※1.)は茶色で珍しいと言われています。アブラゼミは最近都市部ではクマゼミに押されて少ないようですが府民の森で多く見られます。鳴き声は「ジリジリジリ...」と聞こえ、油で揚げものをする音に似ているので「油蝉(アブラゼミ)」の名になったそうです。

 

 写真3.のアブラゼミの抜け殻はずんぐりしていますが、羽化前の木を登る幼虫(写真4.)は体長が長く扁平でてゴキブリのような形をしています。

 

※1 アブラゼミの翅は羽化直後は他のセミと同様白い色をしています。 

2. ニイニイゼミ

 ニイニイゼミは体長25mmほどの小さいセミで、写真6.のように翅は褐色のまだら模様にになっています。写真は羽化後、少し時間が経ってから写したものです。最近は都市部では余り見ませんが、園地では抜け殻によく出会います。ニイニイセミは湿ったところを好みますが、このセミの幼虫が面白いのは、体に泥を付けて(写真7,9参照)出てくることと、木の上の方には登らず根元近くで羽化する(大体数十cm以下が多い)ことです。 

ニイニイゼミの鳴き方は静かな声で「チー--」と長く鳴き、途中調子が変わって「ニー--」と言うようにも鳴きます。

写真6. ニイニイゼミ
写真6. ニイニイゼミ

 

芭蕉の句に出てくるセミ

 

 さて、ここからは俳句に出てくるセミの話です。
芭蕉の「奥の細道」に出てくる句で「
閑さや岩にしみいる蝉の声」はよく知られていますが、この句に読まれているセミは一体何ゼミだったのか?

 芭蕉は元禄2年5月27日(西暦1689年7月13日)に山形の立石寺(りっ

しゃくじ)に参詣した時、この句を詠んだとされています。

麓の宿坊に宿を取り山寺に参詣したようで、夕方が近づくと寺の各院は閉まり、人気もなくなって閑(しずか)で寂寞(せきばく)とした風景の中で、セミの声が寺にある岩(※2.)に吸収されてしみこむように聞こえて一層の閑さを感じたのでしょう。

 

 ※2 立石寺にある岩は「デイサイト凝灰岩」と呼ばれ、火山灰が堆積し固ま

    ったもので細かい穴がたくさん開いていて音を吸収しやすいとされる。

 

 昭和の初期に斎藤茂吉は芭蕉の句のセミは「アブラゼミ」と断定しますが、他の文学者はニイニイゼミだと主張して論争になりました

この論争は、後に茂吉が自らも現地に赴き、また地元の人に依頼して2,3年かけて調べた結果、句が詠まれた時期に出るのはニイニイゼミだったと分かって決着しました。

 以下にニイニイゼミとアブラゼミの鳴く時期、鳴き方を表にして見ました。やっぱり芭蕉が詠んだ時期に当てはまるのはニイニイゼミのようです。アブラゼミはまだ鳴き始める前だったと思われます。ニイニイゼミは鳴き声はアブラゼミのようにやかましくはなく、一日中「チー...ニー...」と持続して鳴くため声が岩にしみいる感じがぴったりのように思います。

 

 ※鳴き始め時期は東北(仙台)のセミの鳴き始めを調べてみたもの

 

参考資料:中公新書「セミの自然誌」中尾舜一著

 

 (2023/8/6 T.T)

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