No.48 府民の森の 南のチョウ・北のチョウ

 今春は外出がままならないので、これまでの観察記録を見直していたら、面白いことに気づいたので、観察写真を交えて少し紹介させてもらいます。

写真1.越冬明けと思われるイシガケチョウ(3月中旬)
写真1.越冬明けと思われるイシガケチョウ(3月中旬)

◆イシガケチョウ◆

(南のチョウ)

 

 翅(はね)を広げると5~8cm位、アゲハチョウよりひとまわり小さく、渓流沿いの照葉樹林に棲むチョウで、名前は翅の模様が石垣のように見えることにちなんでいます。ちなみに、英語では地図の経度緯度を示す線に似ている事から”map butterfly”とも呼ばれています。成虫のまま越冬して、春にイヌビワなどの葉に産卵し、その後何回か産卵と発生を繰り返します。

 写真1(上)は3月中旬に、くろんど園地に向かう市道の道端で翅を広げて日に当たってたところです。おそらく越冬明けのメスで、イヌビワが葉を広げる頃(写真2:5月上旬)まで頑張って、産卵するのでしょう。写真3は6月上旬に、くろんど園地の第2キャンプ場で翅を広げて日に当たってたところです。前翅の先が黒いのでオスでしょうか。また、写真4は、同じ日に駐車場からゲートに向かう道を飛んでいたところです。このあたりはイヌビワが多いので、無事越冬した成虫が産卵して、生まれてきたのかもしれません。白い翅と緑の葉はコントラストがはっきりしていて鳥に見つかりやすいようにも思うのですが、石垣の模様が小枝に見えるのかもしれませんね。

図1. イシガケチョウの分布(2002年)
図1. イシガケチョウの分布(2002年)

 

イシガケチョウは、もともと南西諸島や九州、四国南部に生息していた南方系のチョウですが温暖化の影響か生息域の北上が進んでいて、大阪北部はその先端にあたってます(図1:出展 文献1)。枚岡公園などの生駒山系やむろいけ園地でも、それほど珍しくなく観察されてます。

写真5. スミレで吸蜜するギフチョウ(4月中旬)
写真5. スミレで吸蜜するギフチョウ(4月中旬)

◆ギフチョウ◆

(北のチョウ)

 

 カタクリやショウジョウバカマなどの早春の花と共に”春の妖精”と呼ばれる、春にだけ姿をあらわすチョウです。翅(はね)を広げると5~8cm位、アゲハチョウより少し小さく、下草の少ない落葉広葉樹林に棲んでいます。大阪近郊では、4月上旬に羽化し、少し遅れて羽化するオスと交尾して、カンアオイの仲間に産卵します。この間1か月位で5月上旬には姿を消してしまいます。その後、成長した幼虫は夏にさなぎになって、来春まで過ごします。

 写真5(上)はスミレで、写真6(下)はカタクリで、吸蜜するところです。カタクリに集まるギフチョウを狙って大勢のカメラマンが待ち構えていましたが、この日は坊主だったようです。私も帰り間際に遠く離れたギフチョウをなんとかカメラに収めた次第です。ここのギフチョウにはカタクリは人気がないのでしょうか。

 実は、この写真は大和葛城山で観察した時のものです。金剛山やちはや園地ではギフチョウの数が多くなく、私も見たことがありません。大和葛城山では、御所市がギフチョウを市の文化財に指定して条例を定め、ギフチョウや食用のカンアオイ類の保護を行っています。ちはや園地でも、ギフチョウを見られるようにならないものかと思っていたところ、今年の2月に、千早赤阪村がギフチョウとその食草のミヤコアオイ(写真7)を環境条例に基づき、保護野生動植物に指定し、御所市と連携して保護監視活動を行うことになりました(文献2)。今春は外出がままならないですが、来年はこの活動に少し関われれたらいいなと思ってます。

図2. ギフチョウの分布(2002年)
図2. ギフチョウの分布(2002年)

 

 ギフチョウは日本の固有種で、昔は大阪近郊でも人の手の入った二次林で見られたそうですが、昭和30年代~40年代にかけて、開発・採集などにより、生駒や箕面では絶滅したそうです(文献3)。ギフチョウの仲間はシベリアや中国に分布する北のチョウですが、和歌山県でも既に絶滅し、金剛山はほぼその南限に位置しています。(図2:出展 文献1)

 府民の森では、生息域の北上を続けるイシガケチョウ(南のチョウ)と、個体数減少が危ぶまれるギフチョウ(北のチョウ)とが、環境の変化に伴い、それぞれ生息域の端に位置して、観察されることは興味深いです。(ます 2020/4/19)

参考文献

1)環境省自然環境局,生物多様性調査 昆虫(チョウ)類,2002年3月

2)千早赤坂村,葛城~金剛山系のギフチョウ及びミヤコアオイの保護に取り組んでいます,2020.4.7

 http://www.vill.chihayaakasaka.osaka.jp/kakuka/kanko/2/3668.html

3)渡辺康之,日本の昆虫①ギフチョウ 13章 保護の問題,文一総合出版,1985

リンク

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